執筆・査読の要点
『スポーツパフォーマンス研究』は、従来の科学雑誌では扱われにくかったスポーツやその指導の実践場面の事象を、積極的に研究対象としていく、という点に独自性があります。このため、従来の雑誌における執筆や査読の方法論から見て、異なるあり方が要求される部分もあります。したがって執筆者と査読者とが、これについての共通理解を持っておかなければ、本誌の査読システムはスムーズに機能しません。以下は、そのために執筆者と査読者がともに心がけていただきたいことです。
■ 執筆・査読にあたって要求されること
実践者にとってわかりやすい記述と説明:
執筆者は、研究対象とした事象を、読者である現場の実践者にできるだけわかりやすく伝える(まず事象を記述し、次にそれを説明する)努力をしてください。事象の記述にあたっては、従来の科学雑誌が基盤としてきた数値データだけにとどまらず、映像、言語、記号等も積極的に活用してください。
査読者は、この記述や説明について、著者だけの独りよがりの理解になっていないか、また、できるだけ多くの読者に伝わるような表現となっているかを点検し、建設的なアドバイスをしてください。
事実と意見の区別:
執筆者は、その研究(実践や実証)で得られた「事実」と、その事実を元にした執筆者の「意見・主張」とを明確に区別して表現してください。査読者は、執筆者の意見・主張の是非ではなく、事実を元にした意見・主張の展開の仕方について、一貫性があるか、飛躍がないかについて点検してください。執筆者の意見・主張について、査読者個人としては同意できなくても、研究で得られた事実をもとに、執筆者の論理により一貫性を持って考察が展開されていれば、科学の要件である反証可能性があると見なし、許容してください。
■ 執筆・査読にあたって要求されないこと − 以下は、従来の科学雑誌では求められてきたが、本誌では必ずしも求めない点です。ただし、その代わりとして求められることもありますので、ご注意ください。
対象者について:
多くの人数をそろえ、対照条件も設けるのが従来の研究のあり方ですが、それにはこだわりません。対象者は、一人または少数でもよく、グループの場合でも、対照群を作ることが難しければ、作る必要はありません。たとえば、あるトレーニングを行ったグループについて、その前後の結果を比較して考察する、というスタイルも許容されます。なお本誌は、平均値だけではなく個人の特性も重視する、という特色を持ちます。したがって、トレーニング前後で平均値に有意差があった、ということだけで論文をまとめてしまうのではなく、あわせて個人の変化についても言及する努力をしてください。
有意差検定について:
科学論文の作法ともいうべき有意差検定や、5%水準の統計的有意性にこだわる必要はありません。ただし、このような方法論を用いない分、研究成果が持つ意味を読者に伝えるための説明は行ってください。たとえば、対照群を作らずにトレーニングを行い、改善が見られた場合、そのトレーニング方法に一定の意義があったということについて、先行研究、過去のデータや事象、経験則などから説明する努力をしてください。査読者は、このことに関して執筆者が言及していない有益な説明材料を知っていれば、具体的に明示してアドバイスをしてください。
先行研究について:
先行研究を網羅的に検証し、それをもとに仮説を立て、検証する、というスタイルは必要としません。したがって、先行研究に対する当該研究の位置づけにも、あまりこだわる必要はありません。ただし、当該の研究課題がスポーツやその指導の実践場面でどのような意義や価値を持つのか、また新規性があるのかについての説明は行う努力をしてください。査読者は、当該研究に対して引用が不可欠と考えられる先行研究があり、それを執筆者が書き漏らしていると判断した場合、その文献名を具体的に明示してアドバイスしてください。
文献
(1) 文献リストは、著者名のABC 順に並べる。
例1:論文の場合
三浦 健, 図子浩二, 鈴木章介, 松田三笠, 清水信行 (2002) バスケットボールにおけるチェストパス能力を高める上肢のプライオメトリックス手段に関する研究.体育学研究.47:141-154.
例2:単行本の場合
福永哲夫 (1992) スポーツ競技力を測る動作パワー測定法の開発.競技力向上の科学IV,初版,トレーニング科学研究会編.朝倉書店.pp.241-253.
例3:翻訳書の場合
ケント:福永哲夫監訳 (2006) オックスフォードスポーツ医科学辞典.朝倉書店.pp.141-153.
例4:同一著者の同一年に発行された複数の論文
図子浩二, 高松 薫 (1995a) バリスティックな伸張−短縮サイクル運動の遂行能力を決定する要因 −筋力および瞬発力に着目して−.体力科学.44:147-154.
図子浩二, 高松 薫 (1995b) リバウンドドロップジャンプにおける踏切時間を短縮する要因:下肢の各関節の仕事と着地に対する予測に着目して. 体育学研究. 40:29-39.
※発行年の後にa, b, c, ・・・をつけて区別する。
例5:web サイトの場合
神奈川県立体育センター指導研究部(2006)学校体育に関する生徒児童の意識調査−中学生の意識.
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/40/4317/sidoukenkyubu/kenkyusitu/kenkyu/h18-1.pdf,(参照日2010 年12 月8 日).
U.S. Department of Health and Human Services(online)SF424 (R&R) Applicationand Electronic Submission Information.
http://grants.nih.gov/grants/funding/424/SF424_RR_GUIDE_SBIR_STTR_Adobe_VerB.pdf, (accessed 2011-07-01).
(2) 本文中の文献は、著者名と発行年で示す。
例1:著者が1名の場合
「プライオメトリックトレーニング」(村木,1990) という標語は・・・.
福永 (1996, 1998) による一連の研究では・・・.
山本 (1995, 1997a, 1997b) の一連の高所トレーニング研究では・・・.
ケント (2006) は・・・. ※翻訳書の著者はカタカナ表記とする。
例2:著者が2名の場合
バッティングによる脚の利用法 (河合・田代,1992) という結論は・・・.
“.....” (Winter and Masters, 1998) という考え方には・・・.
井上・塩川 (1989) の研究においては・・・.
例3:著者が3名以上の場合
「・・・・・」 (清水ほか,1994) という結論は・・・.
“.....” (Richard et al., 1998) の視点は・・・.
筋力トレーニングが筋肥大を誘引するという報告 (Mitchell et al., 1970; Morris et al.,
1965)
松下ほか (1998) によれば・・・.
例4:WEB上の資料を参照した場合
科学技術振興機構(online)の報告によれば・・・.
○○との報告がある(U.S. Department of Health and Human Services,online).